文豪「夏目漱石」の前期三部作、後期三部作とは?読む順番は?

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夏目漱石は、日本の近代文学を代表する作家の一人で、彼の生涯で発表された主な小説の数は14作品です。

これに加えて、短編小説や評論、随筆なども多数執筆しています。

その中でも、執筆時期により、前期三部作と後期三部作に分けて分析、紹介されるものがあります。

それが、前期三部作(『三四郎』、『それから』、『門』)と後期三部作(『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』)です。

漱石の作品は、そのどれもが、心理的な深みと社会的な洞察に富み、日本の近代化の波中で苦悩する人々の姿をリアルに描き出しています。

今回は、前期、後期三部作の全作品を取り上げて解説していきます。

さらに詳しく掘り下げた各三部作ごとの記事もありますので、興味があればご覧ください。

目次

前期三部作と後期三部作の区分

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漱石の作品は、彼の文学的キャリアにおける時期によって、前期三部作と後期三部作に分けることができます。

  • 前期三部作『三四郎』、『それから』、『門』
    • 個人の成長と社会との対峙をテーマ
    • 青春の悩みや社会的制約、個人の自由と責任が探求
  • 後期三部作『彼岸過迄』、『行人』、『こころ』
    • 人間の本質や孤独、罪、葛藤などの内面がテーマ
    • 個人の内面や人間関係の心理を深く掘り下げています。

この記事では、これらの作品群をそれぞれ詳細に見ていくことで、夏目漱石の文学的変遷とその作品が今日にもたらす影響を考察します。

なぜ前期三部作、後期三部作と呼ばれるのか?

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前期三部作

前期三部作は、『三四郎』(1908年)、『それから』(1909年)、『門』(1910年)の三作品で構成されています。

これらの作品は、それぞれ若者の成長や社会への適応、人間関係の複雑さを描いており、漱石の心理描写が深化しているのが特徴で、どの作品も恋愛模様を描いています。

失恋:「三四郎」→略奪婚:「それから」→略奪婚による罪悪感に苦しむ:「門」というようにつながっているように思えるところから前期三部作と呼ばれます。

読む順番は、もちろん執筆順『三四郎』→『それから』→『門』がおすすめです。

後期三部作

後期三部作には、『彼岸過迄』(1912年)、『行人』(1912-1913年)、『こころ』(1914年)が含まれます。

ただし、後期三部作に、ストーリーや人物に連続性はありません。

そのため基本的に、読む順番のおすすめはなく、気になった作品から読むとよいでしょう。

これらの作品は、更に進んだ心理描写が特徴的で、人間のエゴに対する葛藤と苦悩が全体のテーマとなっていることが、三部作として取り上げられる一因です。

特に『こころ』では、明治時代の終わりと大正時代の始まりの時期の日本社会の変化を背景に、個人の孤独や疎外感を心の葛藤とともに深く掘り下げています。

これらの作品群は、夏目漱石の文学キャリアの中で重要な位置を占め、彼の文学的進化を示すものとして広く認識されています。

それぞれの三部作が夏目漱石の異なる文学的探求と成熟を映し出しています。

執筆順を年表で紹介

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  • 1903年:『我輩は猫である』を発表し、文学界に登場。
  • 1905年:『坊っちゃん』を発表。
  • 1906年:『夢十夜』を発表。
  • 1907年:『吾輩は猫である』が完結。『文鳥』を発表。
  • 1908年:『三四郎』を発表。前期①
  • 1909年:『それから』を発表。前期②
  • 1910年:『門』を発表。前期③
  • 1911年:『彼岸過迄』を発表。後期①
  • 1912年:『行人』を発表。後期②
  • 1914年:『こころ』を発表。後期③
  • 1915年:『道草』を発表。
  • 1916年:『硝子戸の中』を発表。同年、心臓病により東京で死去。

※最後の作品と言われることもある『明暗』は彼の死去した1916年に未完のまま発表されたため、年表から除外しています。

より詳しい漱石の生涯年表については別記事で深堀りしています。

前期三部作の紹介

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ここから先は、あらすじ解説の都合上、多少のネタバレを含みます。
読むまで内容は絶対知りたくない!という方はブラウザバック推奨です。

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『三四郎』のあらすじと分析

あらすじ

主人公・小川三四郎は九州から東京帝国大学進学のため上京。純朴な彼は、個性豊かな人々との交流を通じて成長していきます。

広田先生や野々宮、与次郎らの知的で多様な価値観に触れ、特に聡明で魅惑的な女性・里見美禰子に心を奪われます。

美禰子との関係は進展せず、彼女が結婚することで三四郎の恋は終わります。

一方で、広田の超然とした生き方に触れ、与次郎が奔走する教授就任運動の失敗も目の当たりにしながら、三四郎は社会や人間関係の複雑さを学びます。

展覧会で美禰子を描いた絵を見た三四郎は「迷える羊(stray sheep)」という言葉を反芻し、自身の青春を振り返るのでした。

分析

『三四郎』は、青春特有の苦悩や成長を描いた夏目漱石の代表作です。

都会と田舎、知性と感情の対立の中で、主人公が新しい価値観に触れ、大人への第一歩を踏み出します。

人間関係や社会の多面性をリアルに描きつつ、時代背景も巧みに反映された名作です。

『それから』のあらすじと分析

あらすじ

主人公の代助は、父親の財力に頼って悠々自適な生活を送るも、家族から縁談を迫られます。

一方、親友の平岡の妻となった三千代に恋心を抱き、彼女を救いたいと願います。

平岡の生活が破綻する中、代助は三千代への愛を告白し、彼女を選ぶ決意をします。

その結果、父や家族との関係を断たれ、裕福な生活を捨てて社会に飛び出していくという、代助の自己変革と孤独な選択の物語です。

分析

『それから』は、『それから』は、1909年に発表された作品で、近代日本の価値観の転換期を背景に、個人の自由や恋愛の優先を描いた夏目漱石の代表作です。

代助の葛藤は、家族や世間の期待と自己の欲求との間で揺れる現代的なジレンマを象徴しています。

彼が三千代を選ぶ姿は、倫理や経済的安定よりも感情を重視する新時代の人物像を示していますが、その選択が孤独と困難を伴うことをも示唆しています。

『門』のあらすじと分析

あらすじ

1910年に発表された『門』は、主人公の宗助とその妻との関係を通じて、内面的な孤独と自我の探求を描いています。

宗助は妻の御米と地味な生活を送り、大学中退や勘当の過去に囚われています。

弟の小六の学費問題や隣人坂井との交流を通じて生活は改善されますが、坂井の知人に過去の因縁を持つ安井がいると知り、不安が再燃します。

宗助は鎌倉で座禅を試みるも悟りには至らず、安井が遠ざかることで一時的な安心を得ますが、過去への恐れは消えず、物語は不安を残して終わります。

分析

『門』は、宗助の孤独や罪の意識を通じて、人間の救済の難しさを描いています。

坂井との交流は希望を与えつつ、過去の影を呼び起こし、宗助の葛藤を強調します。

座禅の場面では完全な悟りに至らないまでも、努力が肯定されることで救済への道のりを示唆します。

しかし、最終的に過去の呪縛から完全には逃れられない宗助の姿は、人間の不安定さと救済の困難さを象徴しています。

前期三部作とは

これら前期三部作は、漱石が文学的に成熟していく過程を示す作品として、日本文学における重要な位置を占めています。

それぞれの作品が持つテーマやスタイルは、漱石の多様な文学的表現力を示しており、彼の作品を通じて日本の社会や個人の内面がどのように描かれているのかを理解する鍵となります。

前期三部作をより詳しく分析した記事はこちらから。

後期三部作の紹介

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『彼岸過迄』のあらすじと分析

あらすじ

『彼岸過迄』は、1912年に発表された夏目漱石の小説で、主人公の大学講師・段蔵とその婚約者・お菊の関係を中心に描かれています。

大学を卒業したものの就職できず、焦燥感を募らせる青年・田川敬太郎。

同じ下宿の友人・森本と将来について語り合う中、敬太郎は大学時代の友人・須永の叔父・田口に就職を頼もうと決意します。

須永の家を訪れた敬太郎は、そこで須永の従妹・千代子と出会い、その天真爛漫な性格に惹かれるが、自身の内向的な性格から恋愛に踏み出せません。

一方、須永も千代子に恋心を抱いていたが、自身のコンプレックスから行動に移せず、敬太郎と千代子の関係が深まるにつれ嫉妬と焦燥を募らせます。

千代子は次第に敬太郎に想いを寄せるが、敬太郎は自分の弱さから彼女を拒絶してしまいます。

一方、須永の苦悩する姿を見た千代子は、彼の真摯さに惹かれ始める。それぞれの想いが交錯する中、物語は意外な結末を迎えます。

分析

『彼岸過迄』は、明治時代の社会変化と個人の葛藤を描いた作品で、特に自我と他者との関係、社会的期待と個人の欲望との緊張を浮き彫りにします。

庄助とお由の夫婦関係を通じて、旧価値観と新価値観の衝突が象徴的に表現されており、漱石の個人的な経験が色濃く反映されています。

1910年の病気や、翌年に五女を失った出来事が、作品に深い影響を与え、漱石自身の孤独感や哲学的思索が描写に現れています。

この作品は、時代の変化と人間の内面の葛藤を深く掘り下げ、漱石の文学的技巧が光る作品です。

『行人』のあらすじと分析

あらすじ

1914年に発表された『行人』は、漱石が死に臨んで書き上げた小説です。

物語は、二郎が友人・三沢を見舞うため大阪を訪れたことから始まります。

三沢は入院中で、病院で出会った女性に心惹かれるが、三沢はその女性と以前飲み明かしていたと告白。

退院後、三沢は精神を病んだ娘のことを話し、二人は別れる。翌日、二郎の兄・一郎が大阪に来て、妻・直と一晩を共に過ごすよう二郎に頼みます。

二郎は渋々承諾し、後に一郎との関係が悪化。二郎は下宿を始め、家族は一郎の異変を感じます。

二郎は一郎を親友Hに託し、旅行に出させ、手紙で一郎の苦悩を知ることになります。

分析



『行人』は、近代的自我の問題と男女関係の葛藤を描いた作品で、主人公・一郎が自分の理想に厳格で他者に同じ水準を求めることで苦悩します。

妻・直の曖昧な態度が家庭内の緊張を高め、弟・二郎の常識的な態度が一郎の孤独を深めます。

漱石は一郎を通じて他者との折り合いをつけられない自我の姿を描き、直はその非条理性の象徴として描かれます。

人間関係の葛藤や孤立感は『こころ』に引き継がれ、現代読者にも強く問いかけます。

『こころ』のあらすじと分析

『こころ』は、1914年に発表された夏目漱石の代表作で、明治時代の終わりから大正時代への移行期に日本が経験した文化的、社会的変化を背景にしています。

あらすじ

1. 先生と私

物語は、語り手である「私」が、「先生」と呼ばれる人物と出会い、深い友情を築いていくことから始まります。
東京での生活と「先生」との関係を描いた第一部「先生と私」では、先生の心の闇に触れるものの、その理由は明かされません。
「私」の視点を通じて、先生の魅力と不思議さが徐々に浮かび上がります。

2. 両親と私

「私」が卒業を報告するために帰省し、父親が危篤状態に陥ります。
先生の教えや価値観を思い返しつつ、家族との関係や自身の内面を見つめます
この期間、先生からの手紙や電報が物語を進める重要な要素となります。

3. 先生の遺書

先生が自ら命を絶つ前に「私」に宛てた遺書が語られ、彼の過去、特に親友Kとの関係とその死によって抱える罪悪感が明らかになります。
先生はその重い罪責感に耐えきれず、最終的に自ら命を絶ちます。

分析

『こころ』は、人間の孤独、罪悪感、そして心の葛藤を描いた作品です。

三部構成により、読者は「私」の視点を通じて先生を理解しようとする前半と、先生自身の告白で全てが明かされる後半の対比を体験します。

主人公「私」と「先生」の関係を通じて、精神的な苦悩や人間関係の複雑さが浮き彫りになります。第一部では、「私」が先生と深い友情を築く一方で、先生の心に隠された闇に触れます。

第二部では、父親の危篤を機に、「私」が帰省し、先生からの手紙を通じて物語が進展。第三部では、先生が過去に抱える罪悪感に苦しみ、最終的に死を選ぶことが明かされます。

物語全体を通じて、精神的な負担や人間の脆さ、愛と友情の難しさがテーマとして浮かび上がります。

特に、先生とKとの関係における罪悪感が、物語の核心を成し、読者に深い共感と考察を促します。

後期三部作とは

漱石の後期三部作は、彼の文学が心理的な深さと哲学的な探求を深めた時期の作品であり、日本文学の中でも特に重要な位置を占めています。

これらの作品は、人間の心理を探究することによって、より普遍的な人間の条件を問い直すものとなっています。

後期三部作をより詳しく分析した記事はこちらから。

作品の評価と影響

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夏目漱石の文学的変遷

夏目漱石の文学的キャリアを通じて、彼の作品は顕著な変遷を遂げました。

前期三部作では、主に若者の成長や社会との関わり合いをリアリスティックに描いています。

これらの作品は、明るくユーモラスな場面もありつつ、個人の社会的な立場や心理的な葛藤が生き生きと描かれています。

一方、後期三部作に移るにつれて、漱石の焦点はより内面的な問題や人間存在の根源的な問題に向けられます。

これらの作品は、深い悲観や孤独感、そして倫理的なジレンマを精緻に描き出し、より哲学的な色彩が強くなっています。

日本文学における漱石作品の位置づけ

夏目漱石の作品は、日本文学における「近代小説」の基礎を築いたと広く評価されています。

彼の作品は、西洋文学の影響を取り入れつつ、日本固有の感性や社会状況を織り交ぜることで、独自の文学表現を創造しました。

特に、「私小説」の流れを汲む作品群は、その後の日本の小説家たちに大きな影響を与えています。

漱石作品の文学的および社会的影響

漱石の小説は、多くの読者や批評家によって高く評価されており、その文学的遺産は今もなお多くの人々に読まれ続けています。

彼の描くキャラクターの心理的複雑さや、社会批評的な視点は、現代日本社会においても有効な洞察を提供しています。

また、漱石は日本の教育システムや文化政策にも影響を与え、文学教育における中心的な作家としての地位を確立しています。

どれから読む?

やはり読みやすいのは、集大成とも言える「こころ」です。場面の展開が明確で、わかりやすいです。

三部作にこだわるなら、三四郎から読んでいくのが面白いです。

個人的には、恋愛に悩む三四郎が好きです。

実は、超メジャーな吾輩は猫であるは、かなり長いので、はじめて夏目漱石を読むなら後回しがおすすめ。盗作のいわくつきでもあります。

最後の作品(未完)である明暗は、更に長いので、もっと後でもいいかもしれません。

もし、悩むようなら、この記事を読んで、あらすじを読んでから決めるのもいいでしょう。

ぜひ、どれか一冊手に取ってみてください。

各三部作は夏目漱石が残した文学的遺産

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ここまで、夏目漱石の各3部作について解説・考察してきました。

前期三部作が近代日本社会と個人の関係を描いた「外面的」な作品群であるのに対し、後期三部作は人間の内面や存在そのものを探求する「内面的」な作品群といえます。

この二つの三部作が、漱石が単なる小説家ではなく、哲学者的な視点を持った思想家としても評価される理由の一つです。

これらの作品を通して、漱石は近代日本が抱える課題や人間存在の普遍的な問題を掘り下げました。

そのため、これらの三部作は時代を超えて愛読され、また研究されています。

漱石がこのような形で日本文学に多面的な遺産を残したことは、とても価値のあることだと思います。

夏目漱石の生涯について興味があるならこちらの記事もどうぞ。

「こころ」は、ある意味、夏目漱石三部作の完成形。ぜひ読んでみてください。

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